ね、前のページで = ド、 = レ……って同じ音に2つの名前があるって話だったよね。なんでわざわざ2つあるんだろう?混乱しない?
混乱した方を消せばよかったのに。
あー、それはそうなんだけど、実は 別々の場所で、別々の目的のために つくられたものが、たまたま両方残ってるっていうのが正直なところなんだ。
別々の目的?
うん。
ざっくり言うと、CDE は「書くため」の名前で、ドレミは「歌うため」の名前として生まれたんだよ。
CDE のほうが先
順番でいうと、CDE のほうが古い。
古代ギリシャまでさかのぼると、音にギリシャ文字を当てて記録してたんだ。それがローマ時代にラテン文字に置き換わって、6世紀ごろにはもう A〜G の7文字で音を表す習慣ができてた。
6世紀って、めっちゃ昔だ。
そう。音を紙に書いて記録するための道具として、文字を使うのは自然だよね。
楽譜が発達するにつれて、この A〜G がそのまま定着していった。今でも英語圏や理論書で CDE を使うのはこの流れ。
あれ、でもなんで A じゃなくて C から始まるの?アルファベットなら A が最初じゃない?
ね、それ思うよね。
文字が当てられた当時、A の音から始まるスケール(今でいう A マイナー=自然短音階)が基準だったんだ。だから A=A、B=B、…… と素直に並んだ。
そのあと、時代が進んで「ドレミファソラシド」っぽい 明るいスケール(メジャー) がよく使われるようになった。それが C から始まるとちょうど黒鍵を使わない ことに気づくんだ。
つまり「文字の起源は A だけど、説明しやすいキーは C」っていう、ちょっとねじれた状態が残ったまま今に至るんだ。
へえ。文字は A スタートだけど、よく使うキーは C スタート、って2つのものさしが並走してる感じ。
ドレミは修道院で生まれた
じゃあドレミの話。これは 11世紀のイタリアの修道院 で生まれたんだ。
修道院。意外な場所だ。
当時、修道士たちは聖歌を覚えるのが大変で、「メロディを耳で覚えるのにいい方法ない?」って話になってた。
そこで グイード・ダレッツォ っていう音楽教師が、ある聖歌を持ち出した。「ウト・クェアント・ラクシス」って讃美歌で、ちょうど各行の最初の音が、1段ずつ階段みたいに上がっていく曲だったんだよ。
グイードは「この曲の各行の最初の音節を、音の名前にしちゃえばいい」って考えた。
歌詞の最初の音節を順番にとると:
| 歌詞の始まり | 音節 | 音 |
|---|---|---|
| Ut queant laxis | Ut | C |
| Resonare fibris | Re | D |
| Mira gestorum | Mi | E |
| Famuli tuorum | Fa | F |
| Solve polluti | Sol | G |
| Labii reatum | La | A |
これで、歌詞を覚えてるとメロディも芋づる式に出てくる、っていう 記憶のフック ができた。
あー、それは便利。
6音だから「ヘクサコード(hexachord)」って呼ばれた。これがドレミの原型。
時代が下って、
- 7音目 が必要になって Si(後の Ti) が足された
- Ut は発音しにくいから Do に置き換わった(17世紀、イタリア)
それで Do Re Mi Fa Sol La Si (Ti) が今のかたちで定着した。
へえ、修道院の暗記ツールが、いま小学校の音楽の教科書に載ってるってことか。
文字は記録、ドレミは記憶
CDE は古代〜中世ヨーロッパで「音を書き残すため」の名前として定着。ドレミは11世紀の修道院で「歌を覚えるため」の名前として生まれた。出発点も目的も別。
なぜ両方が日本に残ったか
で、なんで日本ではどっちも使われてるの?
これも経緯があって、明治時代にヨーロッパ音楽が入ってきたとき、学校教育用の音楽 はイタリア・フランス由来のドレミで導入されたんだ。
子どもに歌わせるのに「ド・レ・ミ」のほうが自然だったし、ヨーロッパでも学校音楽はドレミでやってたから、それをそのまま輸入した。
じゃあ CDE は?
こっちは戦後、ジャズやポップス がアメリカから入ってきたときに一緒に来た。コードネームを書くには CDE のほうが圧倒的に短くて便利なんだ。
「Cmaj7」って書くのと「ハ長調セブンス」って書くのとどっちが楽?って話。
だから日本では:
- 学校の音楽 → ドレミ
- バンドのコード譜・楽器の教則本 → CDE
って棲み分けができたまま、両方が残ったんだ。
ふーん、来たルートが違うから両方残ったのか。
そういうこと。
ちなみに ハニホヘト っていう日本独自の音名もあるよ。明治のころに作られた、CDE の和訳みたいなやつ。
ハニホヘト。聞いたことはある。
ハ=C、ニ=D、ホ=E、ヘ=F、ト=G、イ=A、ロ=B。
「ハ長調」って言うのは「C メジャー」のこと。クラシック系の楽譜やラジオ番組で今も使われてるよ。
つまり「使い分け」じゃなくて「文化の重なり」
どっちで覚えたらいい、とかある?
答えは「両方なんとなく で OK」だよ。
歌うときや音感の話ではドレミが速いし、コードを書くときや理論で考えるときは CDE が速い。
無理に統一しようとせず、場面に応じて切り替わるものなんだ と思っておけば、迷わなくなる。
混乱した方を消す、じゃなくて、両方の生まれた背景を知ったら、なんかどっちも消しがたい気がしてきた。
1000年かけて積み上がったものだからね。
歌の覚え方として生まれたドレミと、書き残すために生まれた CDE。両方の役割が今も残ってる、ってだけの話。
Q&A
Qドイツ語の H って何?
ドイツ語圏では、B のことを H、B♭ のことを B と書くんだ。中世の写本で b の文字に2つの形(角ばった b と丸い b)があったのが、それぞれ独立した記号に分かれて H と B になった、っていう書き文字由来の歴史。
Qフランス語の Si と英語の Ti は同じもの?
そう、同じ7番目の音(B)を指す。イタリア語・フランス語では Si、英語圏ではドレミを教える時に Ti を使う。これは「頭文字がかぶらないように」(Sol と Si が両方 S で始まる)変えた、っていう実用的な理由。
Qドレミは「動く」って聞いたけど?
「移動ド」と「固定ド」っていう2つの考え方がある。固定ドは = 常に「ド」。移動ドはキーの主音をドと呼ぶ(G メジャーなら G がド)。日本の学校では固定ドが多いけど、ソルフェージュ訓練では移動ドを使うこともある。これはまた別の長い話。